クソヘタレにはメンチカツがよく似合う

 こないだデイリーヤマザキのハムカツが旨いという文章を書いたのだが、その後、またデイリーヤマザキに行く機会があったのでハムカツを注文した。わくわくした気分と少しばかり不安な気分を持ちながら。前者は「また、あのハムカツを食べることができるぞ」という気分。後者は「あんだけブチ上げたのに、二回目食べたら別にそうでもなかった、みたいなことにならないだろうか」という気分。そんな感じで、おれは108円を支払った。もちろん、ソースはいらないぜ。次回からは「ハムカツ、ソースなしで」と注文しようかと思うほどだ。おれはひょろっとしたメガネの店員からそれを受け取った。

 前回と同じように歩きながら食べよう。いい年こいていようがなんだろうが、気にしないぜ。紙袋からそれを取り出し、ハムっとそれを口にした。が、そこに訪れたのはハムカツの旨さではなく違和感だった。ハムカツにあるまじき、歯ごたえの無さ。口の中にはハムカツには無い、肉臭さがあふれる。おれは歯型が残った"それ"の断面に目を向けた。メンチカツだ。これ。

 Wikipediaによるとメンチカツとは「洋食のひとつ。豚肉や牛肉の挽肉にタマネギのみじん切り・食塩・コショウなどを混ぜて練り合わせ、小判型に成形し、小麦粉・溶き卵・パン粉からなる衣をつけて油で揚げた日本の料理である。中華鍋に入れた多量の油で揚げるか、またはフライパンで焼き上げる」ものだ。一方のハムカツは同じくWikipediaによると「スライスしたスパム缶詰や、豚肉のハムを、油で揚げたもの」であるそうだ。全然違う。

 しかし、あの店員は間違いなく「ハムカツ」と書かれたPOPが置かれた段から"それ"を取り出した。ということは、調理した人がメンチカツを誤って、ハムカツの段に置いたのだろう。とすると、あのメガネの店員が悪いわけじゃない。彼は純粋にハムカツをおれに提供しようとしたのだ。そうだ。彼を責めても仕方がない。いや、だが、待てよ。あのメガネの店員の名札には初心者マークがついていた。おそらくあの店で働きだしたばかりだろう。ベテランの店員がメンチカツをハムカツの段に誤って置く、などというミスを犯すわけがない。やはり、あのメガネの店員が悪い。間違いない。あのクソメガネが調理してメンチカツをハムカツの段に置いたんだ。絶対そうだ。大体おかしいと思ったんだよ。ハムカツにしては大きいな、って。クソメガネ、許せん。メガネをへし折る。そんで「メガネが無いクソメガネはただのクソだな」と言ってやる。ていうか、あいつ、おれに"それ"を渡すとき、なんかニヤニヤしていなかったか?間違いない。そうだ。「お前みたいなカスにはメンチカツがよく似合うんだよ」みたいなツラをしていやがった。あの野郎、全部わかっていたんだ。メガネをへし折る程度じゃ生ぬるい。ぶっ殺すしかない。

 と、普通だったらそんな風に思うのだろうが、おれはクソヘタレ野郎なので、クレームを言いに行かずに、甘んじてメンチカツを受け入れた。だってめんどくさいしね。今更、代わりのハムカツ渡されても、食べきれないし。それにもしかしたら、世界線が歪んだのかもしれない。この世界線では"これ"がハムカツなのかもしれない。そんなわけないか。そうだよな。でもまあ、結構うまいよ、このメンチカツ。悪くないよ。今日はそういう日だったんだよ。値段、調べていないけれど、きっとメンチカツの方がハムカツより高いよね。そう考えると、ラッキーだよ。ありがとう、メガネくん。そんな風に自分に言い聞かせた。昔から、おれはこういう感じでクレーム入れられない。おれのようなクソヘタレにはメンチカツがよく似合うんだ。ああ、だけどおれやっぱりメンチカツの気分じゃなくて、ハムカツの気分だったんだよ。食べたかったなあ、ハムカツ。あ、だからと言ってメンチカツが嫌いだってわけじゃないよ、コレはホント。マジです。そんな感じで食べ終わって、おれは上を向いて歩いた。涙がこぼれないように。

 なんかこれ書いてたら腹立ってきたわ。やっぱりあのクソメガネ許せん。