カズオ・イシグロ『日の名残り』

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

ちらの(チェコ好き)の日記の人気本ベスト5 2014年上半期 - (チェコ好き)の日記で紹介されていたので気になって購入。俺が買ったのはkindle版です。カズオ・イシグロは『わたしを離さないで』は読んだことがある。んで、この作品だけれど、やっぱキーポイントは語り手が「信用出来ない語り手」である、という点だなあ、と思ったりした。一人称で書かれた小説なんでどこにでもあるんだけれど、これほど語り手が信用出来ない、ってのはなかなかないんじゃないかな、と思うくらい。主人公であり、執事という職に就いているスティーブンスは基本的に自分自身に肯定的であり、且つ自分自身に関わる人々、、、前の主人だったり、今の主人だったり、元同僚の女中頭だったり、、、に対しても大抵肯定的に捉えている。そして、それが地の文体からもこれでもか!これでもか!としつこいくらいヒシヒシと伝わってくる。けど、コレは全て当人の印象でしか無い。んで、読者の方も最初はそれで納得するんだけれど、読み進みていくうちにあれ?あれ?おや?という風に徐々に語り手であるスティーブンス=地の文が信用できなくなってくる。それが最も表れているのがミス・ケントンからの手紙に対するスティーブンスの印象かな、と。結婚生活に満足がいっていなくて、屋敷に戻りたがっている、とスティーブンスは解釈し、それが地の文でも描写されているわけだけれど、実際は別にそんなことはなく、結婚生活はそれなりに上手くいっているし、孫がそろそろ生まれるし、結構幸せやわー、みたいなのが事実として判明。んで、スティーブンスからしたらお前、なんやねん、一緒に働いているときは別に言わなかったけれど地味にエエカンジやったのに、しかもめったに取れへん休暇で色々ありながら訪ねてきて、結局コレかいな。なんやねん、それなんやねん、みたいな。や、ここは別に明確に書かれているわけじゃないんだけれど、そんな感じに捉えることができる。あと、前の主人もメッチャええ人で周りの人からは悪く言われているけれど、いやいや、そんなことあらへん、素晴らしい英国紳士の方やからワシはどうあろうとご主人様のこと肯定し続けるでー、みたいなことが地の文で描写されているので、読者としては「はー、さいですかー」みたいな印象を持つんだけれど、最後まで読むと「ナチスにええように利用されたマヌケ」という印象。まあ、そういうミスリーディング(とは少し違うかもしれないけれど)をしていって、最後にいやいや実はこうこうこうで、というのが面白い小説なんだけれど、コレなんかに感覚が似てるなあ、と思って考えたんだけれど『ユージュアル・サスペクツ』的な感じすかね。徐々に事実が氷解していって、最後に腑に落ちる、みたいな。『わたしを離さないで』も同じような手法だけれど。ラストシーンは「ワシ、今までなにやってたんやろ・・・」で〆。まあ、一応救いがあるっていうか、スティーブンスとしては「まあ、結局はこんな感じになってしまったけれど、今までやってきたこと、信じてきたこと、生きてきたことに誇りと満足があればええやろ」みたいな感じで納得しているんで、いいのかな。確かに過去をあーだこーだと言ってもしゃあないですし「大丈夫、明日はもっとうまくやれるさ」的なマインド大事ですし。この作品まだ一回しか読んでないんだけれど、二回目以降読むと、多分受ける印象がだいぶ変わると思う。

あと、VIPPERな俺 : 職歴なし還暦ニートの俺、失ったものの大きさに涙が止まらないというまとめ記事があったんだけれど、とりあえずお前この本でも読んどけば?